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『ピンクの神様』魚住 直子【作】/講談社
児童文学作家の魚住直子さんが初めて大人向けに書いた短編集です。

魚住さんの作品を読むのは初めてですが、
なんていうか、読んでいる最中から、
主人公たちの心情と私自身の過去の記憶が重なって、
息苦しくなったり、ほっとしたりしました。


ピンクの神様ピンクの神様
(2008/06/26)
魚住 直子

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「卒業」

高校を卒業して女性消防士になった後藤寿々。
高校時代の仲良し3人組のうち、
寿々は仕事に就き、友人のえりは大学、
友香は専門学校へそれぞれ進学した。

寿々は高校卒業後に、えりと友香と会って語らうのを何よりの
楽しみにしていた。
でも不規則な仕事のせいで、なかなか2人と会うこともままならず、
2人からおいてきぼりにされた気持ちになり悶々とする。

そんな中、消防士の仕事で火事の現場に出動し、
寿々は緊張してうまく動けずに、上司に叱られる。

寿々は仕事で失敗しないように、一生懸命トレーニングを始める。
そして・・・・


<感想>
学生時代までは同じ教室で同じ授業を受けて、
同じラインに並んでいた友達が、
卒業を機にそれぞれの道を歩みだします。

いつまでも同じようにいたいと思う気持ちと、
そうはできない現実。
そのハザマにいる寿々の気持ちは、三十路すぎた私にもよくわかります。

------------------------------------------------------

「首なしリカちゃん」

3歳の娘がいる31歳の主人公、加奈子。
加奈子の友達選びの基準は、「自分と似たような服の人」。

セレブな格好の人・服装に無頓着すぎる人とは合わない、
という経験から学んだ加奈子なりの法則である。

そんな中、娘が幼稚園に入園するが、
娘が友達になった舞子ちゃんのママ(岩波さん)は、
デザイナーを目指し、自作の(奇抜ともいえる)洋服を着ていた。

そして岩波さんは、ちょっと図々しいところのある人だった。

幼稚園帰りに、岩波さん母娘を一度家に誘ったら、
それ以降も毎日加奈子の家に立ち寄るようになったり、

舞子ちゃんが加奈子の娘の玩具を
取り上げて泣かせても叱らなかったり、

洋服のネット販売を考えた岩波さんが、
加奈子の家のPCやデジカメを当てにするような発言をしたり・・・

加奈子は困って、近所の公園で遊ぶように提案したが、
今度は岩波さんは自分の洋服作りにかまけて
3歳の舞子ちゃんを1人で公園にこさせて、
帰りは加奈子が舞子ちゃんを送る羽目に。

そんな感じでストレスがどんどん溜まっていく加奈子。
娘同士は仲が良いが、
なんとかして岩波さんから離れて別の人と友達になりたいと思う。

そして、子ども同士が公園で遊ぶ約束を取り付ける前に、
加奈子は自分の娘を買い物に連れ出す。

しかし、その間にいつものように公園に遊びにきていた舞子ちゃんが
行方不明になって・・・・


<感想>

周りのことを気にしすぎたり、
図々しい人から離れたくてに悶々とする加奈子の気持ち、
身につまされました。
自分ひとりならまだしも、
子どもがいると、いろんな事が絡んでくるから難しくなるのでしょうね・・・。

------------------------------------------------------

「ピンクの神様」

小学5年生の葵は、
まみ・さくら・レイ・侑里ら5人のグループでいつも行動している。
しかし、グループのリーダーである葵は、
時々メンバーを一人一人順番に仲間はずれにしていじめた。

葵の両親は家庭内別居状態で、
父母は夜にしょっちゅう喧嘩をしていた。
鬱屈とする気分を友達イジメをすることで解消しようとする葵。

そのイジメは、たいてい1週間で治まるが、
侑里の時は「無期限」と仲間に命じて徹底的に無視する。

侑里は、他のグループに入ろうとするが、
葵は、先回りして
「侑里があなたたちのことで悪口言っていたよ」とウソを伝えて、
侑里の居場所をなくす。

そんな中、葵の母親が自殺未遂をする。
そして葵は・・・・


<感想>
最後の場面、
いじめられて苦しい思いをしたはずの侑里の決断がすごいなと思います。
一見、強いのはイジメの主犯格の葵のように見えますが、
実は侑里の方が強く、葵は非常に脆い人間だというのが伝わってきます。

いじめをする人間は、
他人を虐げることで自分が強い人間だと思い込んでいるのだろうけど、
実はコンプレックスの塊で非常に弱く、
集団じゃないと動けない卑怯者だということを気付くべきなんですよね。

葵はそれに気づきました。

葵がしたことは許されることではないけれど、
この先、葵はひとまわり成長するだろうと予感させる終わり方でした。

-----------------------------------------------------

「みどりの部屋」

転職したばかりの26歳の文子は、
職場で同い年のあゆみと、31歳の美奈子さんと一緒にランチを食べるのが日課だ。

しかし、あゆみは美奈子さんがいないときには、
美奈子さんの悪口をしょっちゅう言っている。

そして、あゆみがいないときには、
美奈子さんからあゆみの愚痴を聞かされる。

文子はたまりかねて、あゆみと2人きりになったときに、
やんわりと、
「美奈子さんに直接気付いたことを言ってみたら?」
と気を遣いつつ、言葉を選んであゆみに伝えのだが、
翌日からあゆみの態度がおかしくなった。

どうやら、今度はあゆみと美奈子さんで、文子の悪口を言い合っているらしい。

文子は観葉植物を買い、
1人暮らしの部屋に飾るのがストレス解消方法になっていたが、
ストレスが溜まるたびに観葉植物を買い込むので、
とうとう、部屋がジャングルのようになってしまった。

そんな中、いつも1人で行動している別の部署の新山さんと会社帰りに会う。
愛想の良くない新山さんのことは、美奈子さんもあゆみも露骨に悪口を言っていて、
文子も鵜呑みにしている部分があったが、
初めて彼女と話すうちに、
愛想は良くないけれど、真面目な人だというのがわかる。


<感想>
私も女子ならではの小さなイザコザというのは
嫌と言うほど経験しました。

対抗心やテリトリー意識が強い子がいると、
余計にこじれた気がします。

毎日顔を付き合わせる相手だと、
下手にあしらうこともできなくて、悩んだっけ・・・。

・・・なんて、今までの自分の過去と照らし合わせながら、
文子目線で読み進みました。
それだけに最後のシーンは、ちょっとホッとしました。

--------------------------------------------------

「囚われ人」

文房具屋さんのオーナーである典子は、
過去の自分が犯した罪によって、
「囚われ人」のような思いを味わっていた。


<感想>
このあらすじを書くのはちょっと苦しいので、控えます。
「首なしリカちゃん」の加奈子のもう一つの結末とも言えるストーリーです。

典子が背負っているものは大きいけれど、
彼女が心の中で思うことに、すごく共感しました。

「小さな世界で生きている人の悩みを、軽蔑する人がいる。
 もっと大きな世界で体を張って生きていると自負している者たちだ。
 その者たちは、閉じられた小さな世界に住む者の悩みなんて、
とるにたりないことだと信じている。」

でも、と典子は思う。
そういう人達だって、永遠に大きな世界にいるわけじゃないだろう。
自分が閉じられた小さな世界の住人になったときにでも
馬鹿馬鹿しいと言い切れるのか。


「人間関係なんてとるにたらないこと」、
そう思えたらすごく楽ですよね。

でも、現実はそうではなく、
日々属している家庭・職場・学校、そういう「小さな世界」に
翻弄されている自分がいます。

「些細なことにとらわれず、もっと大きく広い世界をみなければ」
と焦ることもありますが
それぞれの「小さな世界」が重なり合って、
「日常」が作られているのだから、
こうして悩む事だって当たり前のことなんだ、
そう思ったほうがかえって楽になるような気がします。

----------------------------------------------------

「魔法の時間」

中学入学と同時に、「ちょっと天然なキャラ」を演じるようになった「ひな」。
(どうやら、このひなちゃんは、「みどりの部屋」の新山さんの妹らしい)

最初はそれでうまくクラスに馴染んだと思っていたものの、
林間学校の脱衣所で友達から
「あれって、わざと演じてるよね」「うざいよね」
と陰口を言われているのを聞いてしまい、
夜、眠れなくなる。

眠れないまま、あるクラスメートが寝室(大部屋)を抜け出すのに気付いて、
あとを追うひな。

明かりの下で見たら、敬語でしか話さないためクラスから浮いている昌本さんだった。
昌本さんは夜中なのに宿泊施設の玄関に行き、
クラスメートの靴をとりだして並べるという奇妙な行動を始めた。

それを目撃したひなは昌本さんに声をかける。
ぎょっとした昌本さんは言い訳をするように色々と話し始める。

そして、2人は夜が明ける直前までずっと話しこみ・・・。


<感想>
自分で「キャラを演じる」というのは私もやったことがあります。
お恥ずかしい話ですが、
最初に入った会社で、私は「道化師」になりました。
仕事がしんどくても、同僚に嫌味な態度をとられても、
いつもニコニコ笑顔でいれば、
きっと職場でもうまくやれるだろうと思いました。

ところが、その「演技」は
自分の心と体には非常に負担になってしまいました。
やっぱり言うべき時に相手に言わないで
我慢しすぎるのは良くないですね・・・。
人に嫌われたくない、という弱さが私にあったのが原因でしょう。

非常に苦い思い出です。

本当の自分とは違うキャラを演じるには、
相当の体力と精神力が必要だし、
それが無いならば、無理して演じるのはやめたほうがいい
と身にしみてわかりました。

---------------------------------------------------

「ベランダからキス」

2歳年下の彼(祐治)と結婚前提の同棲を始めた22歳の佐紀。
祐治の父親と兄は医者、母は元キャビンアテンダントで、
2人の結婚を猛反対。

佐紀と祐治は一緒に暮らし始めたものの、喧嘩ばかり。
喧嘩の一番の原因は、祐治が佐紀の味方をせずに、
「俺はどっちの肩を持つ気はない」とのらりくらりかわしていること。

もともと、結婚についても祐治はそれほど乗り気ではなく、
早く結婚したかった佐紀がせっついた形で始めた同棲だった。

そして、何度目かの喧嘩をして、
祐治がふいっと外へ出かけたまま帰らなかった日、
同じアパートに住む長尾さんというおばさんが、
おすそ分けの「きゅうり」を持ってやってきた。
何かとお節介な長尾さんに対して、うさんくさく思う佐紀。

母子家庭で育ち、若い恋人を作って失踪した母親や、
親友だと思っていたのに、
裏で自分の悪口を言っていた中学時代の友達のことなどもあって、
佐紀はすっかり人を信じられなくなっていた。

しかし、祐治が実家に帰ることを決め、
二人の別れが決定的になった日に熱を出して寝込んでしまう。
その時に長尾さんが心配してお粥などをもってきてくれて、
今まで誰のことも信じられずにいた佐紀は涙を流す。


<感想>
誰のことも信じられず、「二度と騙されない」と思っていた佐紀が

「孤独で惨めなのは自分だけだと僻んでいたけれど、
思い切って前を向けば、私も変われるだろうか。」


と考えるようになる場面が心に残ります。

きつい状況になると、
「なんで私だけ・・・」って思いがちですが、
自分を哀れんだら、そこで終わりなんですよね。

そのことを改めて気付かされる作品でした。

-------------------------------------------

以上、7編の作品が収録されています。

7編の中で、私が一番身につまされたのが、
「首なしリカちゃん」と「魔法の時間」かなー・・・。

他人から見たら「瑣末な悩み」であっても、
本人にとっては一大事だったりしますよね。

壮大なファンタジー作品などで
数々の困難を乗り越える登場人物に勇気を貰うことも多いですが、
こういう“小さな世界”(by「囚われ人」)における
人と人との関わり・出来事を読んで、勇気をもらえる事があります。

それから、この短編集では、
それぞれの作品に、別の作品の主人公との「つながり」を
発見することもあって面白いです。
(ある主人公が、別の作品にさりげなく登場していたり)

感想が相当長くなってしまいました(^^;)

そんな感想を残したくなるほど、何か余韻が残る作品でした。


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【2009/04/18 21:55】 児童書以外の本 | TRACKBACK(-) | COMMENT(4) |
この記事に対するコメント

こんにちは~。この作家さんは初めて知ったのですが、すごく惹かれる内容ですね!私も人間関係は深く狭くタイプなので職場では内心合わない人多数だったんですが(汗)、自分だけじゃないんだな…と思えると気が楽になりますよね(^_^;)特に最近ママ友デビュー(?)をして、図々しい人にさっそく引いた経験があるので、この本読んでみたいと思います☆人付き合いってなかなか大変ですよね~。素敵な本の紹介ありがとうございました~。


【2009/04/19 18:04】 URL | ちい #- [ 編集]


☆ちいさん☆
ちいさん、こんばんは(^▽^)v-354
私も魚住さんの作品は初めて読んだんですよー!

一篇一篇読むごとに、
「わかるなぁ・・・」
と共感する部分がありました。

ちいさんも人間関係は「深く狭くタイプ」なんですね!
私もそうなんですv-356
それなのに、社会人になったばかりのころは、
「道化師」を演じ、広く浅くを目指してみたのですが、
やはり、無理がありました・・・( ̄▽ ̄;)>

ちいさんも、
早速図々しいママ友に遭遇してしまったのですね(><)
ああいうタイプって、
本当にズカズカ踏み込んでくるから厄介なんですよね・・・v-393

この本、お勧めですよー!
どの作品も読み終わった後に、
何となくホッとした気持ちになります(^▽^)

ちいさんのブログにも、
またお邪魔させていただきますね!
ε=ε=ε=ε=ε=(o^▽^)o




【2009/04/20 20:36】 URL | 朝凪(管理人) #- [ 編集]


朝凪さん、こんばんは♪
お久しぶりです~

この作家さん、私もはじめて知ったのですが、
ホント共感するお話が多いです。
私は前の職場で「みどりの部屋」と同じような経験をしましたよ。
新入りの私に凄く優しくしてくれる仲良しA・Bさんがいたのですが、
表では仲が良いのに陰でAさんはBさんの悪口ばかり・・
私は新入りだったこともあり、最初は陰口も聞いていたのですが、
Aさんの表と裏の違いようがだんだん嫌になってきて、
一言いってしまったら次の日から態度が変わってきて^^;
朝凪さんも書かれているように、
Aさんが対抗心やテリトリー意識が強い人だったんですね~
一言いったことにより私はAさんの敵になってしまって、
表では普通どおりだけど陰で悪口言われてる感じがプンプンでしたよ(^m^ ;)
結局精神的に限界を感じて辞めましたが、今でもトラウマ。
この作品を読んだらなんだか泣いてしまいそう・・でも読んでみたいな~

うぉぉぉ~
無駄に長い私の思い出話コメントを申し訳ないです~><;

朝凪さん、
今回も素敵な本のご紹介をありがとうございました(*^^*)ノ
【2009/04/23 21:03】 URL | はるる #mZ3gWd7. [ 編集]


☆はるるさん☆

はるるさん、こんばんはー(^▽^)v-354
「はるるさんお元気かな?」
と気になって、ブログに時々お邪魔していたので、
コメントをいただけて嬉しく思いますi-179

魚住さんの作品、私も初めて読んだのですが、
人の心の機微が本当にうまく描かれているなーと思いました。
だからこそ、
ほとんどの主人公に共感できたのかもi-190

はるるさんも「みどりの部屋」と同じ状況になった事があるのですねv-406
裏表のある人って信じられないですよね・・・。

そうそう、対抗心やテリトリー意識の強い人は、
自分を肯定してくれる人以外は
「敵」と見なして攻撃してくるんですよね。。。

私も、そのAさんのような人に遭遇した事があるので、
(私は学生時代の同級生でした)
トラウマになってしまったというのも、よくわかります…。

この短編集、自分の体験と照らし合わせて
胸が痛くなるもありますが、
どの作品も、最後は「光」が見えてくるので、
きっと読み終わった後に、
なんとなく気持ちがスッキリすると思いますよ!

はるるさん、辛い思い出だったでしょうに、
お話してくださってありがとうございます!
ほんと、感謝ですv-343

私の方こそ、
コメントをいただきありがとうございましたi-179


【2009/04/23 23:36】 URL | 朝凪(管理人) #- [ 編集]


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朝凪(あさなぎ)
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